前回、第3位として
「相手の顔を思い浮かべる力」について書きました。
今回は、第2位です。
還暦で骨董の世界に飛び込み、
右も左も分からない一年目の私に、
深く刺さった言葉があります。
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【はっとした一言】
「安いから買うな。
高いからやめるな。
誰から買うかだ。」
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その言葉をくれたのは、
四十年以上この世界にいる大先輩でした。
足繁く通った市場。
いつも変わらない穏やかな笑顔。
柔らかい物腰。
決して声を荒げない人。
何気ない調子で言われた一言でした。
けれど私は、その場で動けなくなりました。
骨董の世界に入って一年。
私が一番不安だったこと。
それは
「これは本物なのか。
自分に本当に分かるのか。」
という恐れでした。
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骨董とは何か。
骨董は、単なる古い物ではありません。
単なる中古品でもありません。
骨董とは
“本質を扱う商い” です。
しかし本質は、目に見えません。
だからこそ難しい。
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骨董には贋作が生まれます。
理由は単純です。
骨董は再生産できない。
供給は増えない。
しかし需要はある。
経済学で言えば
固定供給市場です。
供給が限られ、価格が上がれば
代替品が生まれる。
それが贋作です。
これは道徳の問題だけではありません。
市場構造の問題です。
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鑑定家・中島誠之助氏は
「市場には贋作が溢れている」
と語っています。
実際、歴史上も
・春峯庵事件
・永仁の壺事件
など、
専門家さえ見抜けなかった
贋作事件があります。
つまり
プロでも騙される世界
それが骨董です。
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骨董市場には
「情報の非対称性」
があります。
売る側は情報を持つ。
買う側は持たない。
これは経済学で
レモン市場問題
と呼ばれます。
疑いがある市場では、
良い物ほど市場から消えていく。
そして怪しい物だけが残る。
骨董はさらに複雑です。
・真贋が難しい
・再生産できない
・一点物
・感情が絡む
だからこそ
最後に残るのは
価格ではなく信用です。
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その大先輩は言いました。
「四十年やっていても
分からないものは出てくるよ。」
そして笑いました。
「知らないものが出てくるから
この世界は面白いんだ。」
迷う品があれば
自分で買い
博物館へ行き
図録を調べ
結論が出るまで勉強する。
「勉強するしかない。
でもそれが楽しい。」
四十年続けてなお
「まだ分からない」と言える人。
その姿勢こそ
信用なのだと思いました。
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「安いから買うな。
高いからやめるな。
誰から買うかだ。」
この言葉は感情論ではありません。
情報の非対称性がある市場では
・保証
・長期関係
・ブランド
・評判
つまり
信用資本(Trust Capital)
が必要になります。
価格は一瞬。
信用は積み重なる。
そして
信用は
目利き以上に強い資産になる。
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市場の帰り道。
私は少し肩の力が抜けていました。
「分からなくてもいい。
学び続ければいい。」
四十年続けてなお
楽しそうに語る先輩。
その姿が頭に浮かびました。
骨董は
本質を扱う世界。
そして商いは
人を扱う世界。
還暦の新人が胸に刻んだ
第2位の言葉。
「値段ではなく
信用が流通する。」
次回はいよいよ
第1位です。






