「瀬戸染付はいつから始まったのか?」
この問いに、明確な答えを出すことは、今もなお難しい。
ここ30年間の研究によって明らかになってきたのは、
瀬戸における磁器生産の本格的な始まりについて断定できる、
江戸時代から明治時代にかけての史料が確認できていない、という現実である。
つまり、これまで語り継がれてきた「史実」とされるものの多くが、
実のところは口伝や伝承によるものであり、
その真偽については再検証が求められているのだ。
こうした背景を受け、研究者たちは地道な再調査を始めた。
新たに発見された作品や資料の紹介、記録の原点確認、そして基礎的な検証作業を繰り返す中で、
「何が事実で、何がまだ不明なのか」がようやく整理されつつある。
現在のところ、はっきりしているのは――
・創始者が誰かは確定できていないこと
・磁器生産の明確な「開始年」は特定できていないこと
従来、瀬戸での磁器生産は「天明年間(1781〜1789年)に始まった」という説が広く知られていたが、
それを証明する確実な資料は存在しておらず、依然として不確定のままである。
一方で、「享和年間(1801〜1804年)」に制作されたと見られる瀬戸の磁器には、
明確に年号(銘)を持つものがいくつか確認されており、
この時期にはすでに商品として流通していたことが推測されている。
特に注目すべきは、現在のところ確認されている「銘入り瀬戸染付」に見られるのが、
「享和」およびその次の時代「文化」の年号に限られているという点だ。
これは、磁器生産が1800年代初頭には確実に行われていたことを示す、重要な手がかりと言える。
参考文献
瀬戸染付ー軌跡そして技と美ー
発行日:令和6年10月5日
磁祖 加藤民吉物語
公益財団法人 瀬戸市文化振興財団