わずか数十年で消えた“幻のやきもの”──川名焼物語➂

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異国情緒を映した幻のやきもの──川名焼の銅版転写製品

名古屋市昭和区川名町。
かつてこの地で、わずか数十年だけ火がともった窯がありました。
その名を「川名焼(かわなやき)」といいます。
鎖国の時代に生まれたにもかかわらず、その器には異国の香りが漂い、
当時の人々にとっては、まさに未知なる世界を映す“窓”のような存在だったのです。

 

多彩な製品──暮らしと美を彩る器たち

川名焼で焼かれた銅版転写の製品は、種類がきわめて豊富でした。
湯呑み、火入れ、菓子器、皿、茶器類、酒器類、文具類など、
実に多様な器が生み出されていたと伝えられています。
どの作品にも共通していたのは、素地と釉薬の見事な調和です。
器の表面には上品な艶があり、手に取ると高級感と静かな品格が伝わってきます。

 

唐草模様に宿る精密な職人技

川名焼の銅版転写による模様は、当時の高級磁器に共通する
口縁部や外側をめぐる唐草模様や花文様が多く見られます。
しかし川名焼が特別なのは、その継ぎ目がまったくわからないほどの精密さにあります。
模様の接合部を完全に一致させ、
まるで筆で描いたかのように自然に見せる――。
その仕上げの丁寧さは、まさに手描きと見まがうほどのレベルでした。
この技こそが、川名焼の職人たちの誇りであり、
高度な技術と厳格な品質管理を物語っています。

 

 

 

 

鎖国の時代に映された「異国の景観」

川名焼の器面には、異国情緒あふれる風景や模様が転写されています。
それは、西洋の版画や中国磁器に見られる建築・風景・植物文様をモチーフにしたものでした。
鎖国の時代、日本の人々は外国の文化や風景を直接目にすることができませんでした。
そのような状況の中で、川名焼の器に描かれた異国の景観は、
未知なる国の貴重な情報源として、大きな好奇心をかき立てたことでしょう。
単なる生活の器ではなく、
“世界を知る窓”としての役割をも果たしていたのです。

 

異人夫婦情景

 

 

窓絵外国景観文碗

 

 

 

幻の美──限られた時代に咲いた工芸の結晶

 

川名焼の窯が稼働していたのは、ほんの数十年。
そのため生産数は少なく、現存する作品はごくわずかです。
今日ではほとんどが美術館や個人蔵に収められ、
市場に姿を現すことはほとんどありません。
しかし、その器を手に取ると、
釉と土の調和、銅版転写の繊細な文様、そして異国の風を感じさせる美意識が息づいています。
川名焼は、短い歴史の中で職人たちが到達した、日本陶芸の一つの極みといえるでしょう。